~ コンディショニング法を見直す ~

 

様々なトレーニングやコンディショニング法をストリートダンスやスポーツに導入する際の注意点や考えるべき点を挙げてみます。

 

これは、今まで私がたくさんのストリートダンサーや、現役のプロ格闘技選手の治療やコンディショニングのアドバイスをしてきて感じていることです。

 

このストレッチ、このトレーニング法は、本当に動きの為になっているか?

 

最近は“動き”を重要視したトレーニング法がよく紹介されるようになってきました。

 

サッカーや野球などの人気から、その選手たちが取り組んでいることにより注目され始めた様です。

 

スタビライゼーション、プライオメトリクス、ファンクショナルトレーニング、ピラティス、ヨガ・・・・

 

スタビライゼーションやファンクショナルトレーニングなどは、ストリートダンス、特にブレイキンなどの動作とよく似た部分があります。

 

一つ一つのスキルを止めてキープしたり、何度も繰り返すことで、自然とスタビライゼーションやファンクショナルトレーニングになっていたりします。

 

また、よくある例として、バレエダンサーがピラティスを行っているパターンです。

 

ピラティスはもともと、戦争で負傷した兵士たちを“通常の生活レベル”の動きができることを目指した、リハビリ的要素が原点のエクササイズです。

 

大きな怪我などで、寝たきり状態が長期間続いた患者さんのリハビリや、パーキンソ病などで全身の動きが悪くなっていく患者さんの筋力低下をできるだけ予防する様なリハビリとよく似た要素で構成されています。

 

つまり、「座る」、「立つ」と言った、日常生活のもっとも基本的な動作が可能になることが目的とされていますから、


“ダイナミックな動きに欠ける”

 

と言う点があります。

 

もちろん、やってみると動きは地味でも非常にきついエクササイズですから、腹筋や背筋などの体幹部の力はとても強くなります。


人間のもっとも基本的な力を養うには最適でしょう。


しかし、小さい動きで筋力トレーニングをするので、スポーツやダンスなどダイナミックな動きする為に必要な、

 

“崩れた姿勢での動的なバランス能力”

や、

“激しく変わるバランスを動きでつなげていく”

などの能力につなげにくい、と言う問題点があります。

 

すると、

 

「筋力はついて強くなった。でも動きが硬くなった。」

 

と言う現象がよく起こります。

 

動きが硬くなると、特にダンスで必要な

 

“ボディリズム”“グルーヴ感”

 

と言ったものが失われることになります。

 

音楽と同調して体を揺らすと言うことは、

 

“バランスを崩すこととバランスを回復させることを連続して行っている”

 

と言えるでしょう。

 

ですから、よく言われる“いい姿勢”にこだわることはありません

 

一つの形にこだわるとすべては固まってしまい、動けない体になってしまいます。

 

その中でも、ピラティスを有効に活用できている“バレエダンサー”などは、バレエの技量もそれなりにあるからだと言えるでしょう。

 

また、ストリートダンスに比べ、バレエは体幹部のアライメントを崩さずに踊ることがほとんどです。そのため、体幹部をしっかり固めることがメインのピラティスと相性が良いと考えられます。

 

これはジャンルに合ったコンディショニングを選ぶと言うことで、非常に大事なポイントの一つになります。

 

またピラティスとならんで、ヨガもよく行われているエクササイズの一つです。

 

本来のヨガは、瞑想や様々な修行法を取り入れた難しいものですが、現代もっとも広まっているヨガのスタイルは、柔軟性を追求し、正しい姿勢、正しい呼吸などの習得により、よりよい心身を目指していくものと言えるでしょう。

 

しかし、これもスポーツ選手やストリートダンサーが取り入れるに当たっては、少々注意しなければならない点があります。

 

先に挙げたピラティス同様、ヨガもあまり姿勢を崩すようなことはしないことと、静的な要素が強い為、ダイナミックな動きに欠けると言う点です。

 

一見、ぐにゃりと曲がった様に見えるポーズも、実は腰や腹に一定の力を込めて、ゆるまない様にしていることが多い様です。

 

そのため、私が知り合うことのできたヨガのインストラクターの方々は、様々なヨガのポーズで柔軟性はとても高いのですが、意外にも首や腰、足首などに慢性的な痛みやしびれなどの症状を持つ方が多く、いろいろと相談を受けました。

 

これらの方々は、

 

全身の関節は柔らかいのですが(動く範囲が広い)

 

関節周りの筋肉がかなり硬い(動作が硬くなる)

 

と言う特徴も多く見受けられました。

 

この原因は、動的な要素が少ないと言うことに尽きる、と私は考えています。

 

この考えを裏付けるものとして、現代広まったヨガの主な流派は、なんと1900年代以降に各流派のヨガが編集され、1900年代の後半に流行った、と言うことがあります。

 

この様に、かなり近代になってから編集されたものであれば、もともとはもっと動的なエクササイズも含まれていたのではないか?

 

もとより、いろんなスタイルのあるヨガと言うものを、無理に一つにしてしまったのではないか?

 

と言う疑問がわいてきます。

 

瞑想的なヨガはおいておくとして、エクササイズとしてのヨガは、その昔インドの伝統武術のカラリパヤットなどと深い関係があったのではないかと言うのが私の仮説です。

 

インドのカラリパヤットと言う伝統武術は、非常にダイナミックな動きで、広いスタンスから多彩な足技を繰り出したり、長い棒や剣などの様々な武器の操作も学びます。

 

昔から体を調整する健康法であるエクササイズと武術は密接な関係があるものですから、ヨガの様な調整法もかなり含まれていたのではないかと想像してしまいます。

 

武術は怪我をする確率が高いですから、医学やコンディショニングを必要とするのは当然ですね。

 

その様に、現代スタイルのヨガにはもう少し動的な部分がないと、かえって体を痛めたり、動作が悪くなったりする懸念もあり、そうしたことに気付き始めたのか、海外では武術の動きを取り入れ、よりダイナミックな動きにしたヨガ、

 

“ヨギックアーツ(創始者ダンカン・ウォン)”

 

と言う新しいヨガが誕生しています。

 

このヨギックアーツ、見たところは武術にも見えますし、ブレイクダンスにも見える部分があり、とてもダイナミック、動的なエクササイズです。

 

人は何かが足りない、と思った時に新しい何かを発明するのではないでしょうか。

 

以上のことから言えますのは、小さい動きで静的な要素の強いエクササイズは、基本的な柔軟性と筋力、バランス能力を与えてくれますが、ダンスや他のスポーツ全般では、もっと速い動作、強い動作、大きい動作が必要とされますので、コンディショニングのエクササイズもそういった“ダイナミックな要素”が必要だと言うことです。

 

姿勢を崩さない様にしようと言う意識が強いと、体は固まってしまうものです。

 

姿勢を維持するには必要なことですが、いい姿勢ができたら、次は

 

“そこから動く”

 

と言うことが人間にとって必要になってきます。

 

これはスポーツやダンスをしない人でも同じです。

 

静的なエクササイズと共に、バランスよく動的なエクササイズも行う必要があるのです。

 

ダイナミックと言っても、激しいエクササイズばかりではありません。

 

簡単に言えば“武術の型”などを少しゆっくりと行うと言うものがあります。

 

太極拳を始めとして、武術は全身の協調運動で、ゆっくり行ってもとてもダイナミックな動作です。

 

しかし、武術の型や基本動作は、動かし方のコツやポイントが分かっていないと意味がありません。


私は、そうした武術の動作を、誰にでも体感できる様にエクササイズ化することを日々の治療やイベントサポートなどの中で研究しているわけです。